今回は、鼠径ヘルニアの再発について特集します。
鼠径部ヘルニアの再発について
鼠径(そけい)ヘルニア(いわゆる脱腸)は、手術による治療以外に治療方法がない疾患です。しかし、手術を行えば一生涯鼠径ヘルニアで悩まされることはなくなるのかと言いますと、すべての人がそうではありません。
手術を行ってから3か月から10年あるいはそれ以上の年月が経過してから手術を行った部分が再び鼠径ヘルニアとなってしまうことがあります。鼠径ヘルニアの手術を行ってから再度、鼠径ヘルニアとなることを再発と言います。
手術を受けた方にしてみたら、手術を行ったのに何故、鼠径ヘルニアとなってしまうのかと悩んでしまわれる方が多いかと思います。
鼠径ヘルニア再発の原因
鼠径ヘルニアの再発の原因の患者側の要因として、肥満、喫煙、糖尿病、術後の手術部位感染とされています。手術側の要因として、手術を行う外科医の経験数、手術方法(*)、使用するメッシュの種類などがあげられます(**)。
患者側の要因として、気をつけられることがあるかといいますと手術を受ける時点で、すでに肥満や糖尿病、喫煙者であることがほとんどです。ですので、診断がついた時点ではどうすることもできないというのが現状です。
私自身が今までに3000例の鼠径ヘルニア手術を行ってきた経験からすると、あくまで私見ですが、再発の原因の99%が医療者側の手術の力量によるところにあると考えています。なぜなら患者側の要因の一つである肥満の方の手術は、手術の難易度が非常に高くなるからであり再発をさせないような治療を行うためには、かなりの経験値が必要となるからです。
大きなヘルニアの方や再発ヘルニアの手術も同様、手術の難易度が高くなるため、再発となる可能性が高くなります。
*日本内視鏡外科学会の第16回アンケート調査によれば、再発率は、腹腔鏡手術0.4%~3%、メッシュを使用した鼠径部切開法1%~22%、メッシュを使用しない鼠径部切開法2%とされています。
**Causes of recurrence in laparoscopic inguinal hernia repair. Hernia (2018) 22:975–986
再発した場合の対処法
最初に手術を行った施設に受診することをお勧めします。
診断をしていただいた後、鼠径ヘルニアを多く行っている施設であれば、その施設で再度、手術を行うか相談していただくのが良いと思います。鼠径ヘルニア治療が少ない施設であれば、専門性に特化した施設に紹介していただくことをお勧めします。
再発鼠径ヘルニアの治療
鼠径ヘルニアは、再発の場合であっても手術が基本となります。
手術方法は、世界のガイドラインで示されているように鼠径部を切開した後の再発に対しては腹腔鏡手術、腹腔鏡手術の再発に対しては鼠径部を切開する方法が推奨されていますが、腹腔鏡手術を選択する場合には経験値の高い外科医が行うことが条件とされています。
再発鼠径ヘルニアの治療は、非常に難易度が高いため再々発となる可能性が高いため、鼠径ヘルニア手術の経験が多い医師に手術を行ってもらうことが重要です。
当院は、3000例を超える鼠径ヘルニア手術を行っているため、難易度が高い鼠径ヘルニアに対しても、安全性が高く、再発を極力させない手術が提供できると考えております。再発に限らず鼠径ヘルニアでお悩みの方は、ぜひ一度、ご来院ください。
著者情報
医療法人社団健誠会 Kenクリニック 理事長。
⽇本外科学会専⾨医・指導医、⽇本ヘルニア学会(評議員/ガイドライン委員/総務委員/教育委員)。鼠径部ヘルニアに対する鼠径部切開法(以前から行われてきた鼠径部を切開する方法)は2000病変以上、腹腔鏡手術も1000病変以上の経験を誇る。